FID(Free Induction Decay:自由誘導減衰)
90°パルスの直後に現れて減衰していく、MRIのいちばん素朴な信号。なぜ減衰するのか、T2とT2*の違い、なぜ実際の撮像ではFIDをそのまま使わないのかまで。
一言でいうと
FID(Free Induction Decay)は、90°パルスを当てた直後に現れて、すぐに小さくなっていく信号です。MR信号のいちばん素朴な形にあたります。
どうやって生まれるか
MRIの中では、体内の水素原子核が磁場の向きにそろっています(縦磁化)。
ここに90°パルス(RFパルス)を当てると、そろっていた磁化が横に倒れます。倒れた磁化は、そのまま磁場の周りをコマのように回り続けます(歳差運動)。
この回転する磁化がコイルに電圧を生み、信号として拾えます。これがFIDです。
「Free(自由)」は、パルスを止めたあと自由に回っている状態を、「Induction(誘導)」はコイルに電圧を誘導することを指しています。
なぜ減衰するのか
倒れた直後は、すべての原子核がきれいに足並みをそろえて回っています。ところが時間が経つと、少しずつバラバラの位置に散らばっていきます(位相分散)。
打ち上げ花火のように、はじめは固まっていたものが散っていくイメージです。全体としての合計がゼロに近づいていくので、信号は小さくなります。
位相が散らばる原因は2つあります。
- 組織そのものの性質による散らばり → これが本来の T2
- 静磁場のムラ(不均一)による散らばり → 装置側の都合
FIDはこの2つを両方とも受けて減衰します。合わせた減衰の速さを T2*(ティーツースター) と呼びます。
原因が2つあるぶん速く減るので、必ず T2* < T2 になります。
だから実際の撮像ではFIDを直接使わない
T2*には装置の磁場ムラが混ざっているため、そのまま測っても「その組織のT2」にはなりません。
そこで180°パルスを当てます。位相が散らばりかけたところで全員を折り返すと、磁場のムラによるズレだけがちょうど打ち消し合い、信号が復活します。これがスピンエコーです。
- FID(T2*) … 組織のT2 + 磁場のムラ
- スピンエコー(T2) … 磁場のムラを取り除いた、組織本来の値
GREとの関係
グラディエントエコー(GRE)は、180°パルスを使わず傾斜磁場の反転でエコーを作ります。そのため磁場のムラは打ち消されず、T2*の影響が残ります。
これがGREで磁化率アーチファクト(金属や空気の境界での信号消失)が出やすい理由です。逆にこの性質を積極的に使ったのがSWI(磁化率強調画像)で、微小出血の検出に役立ちます。
T1とは別の話
よく混ざるので念のため。FIDやT2*は、横に倒れた磁化が散らばっていく話です。
いっぽうT1は、倒れた磁化が元の縦向きに戻っていく話で、まったく別の現象です。同時に進行しますが、原因も測り方も違います。
国試ではこう出る
- FIDが減衰する速さを決めるのはT2ではなくT2*。T2*には、組織本来のT2に加えて静磁場の不均一による位相のずれが含まれる。必ず T2* < T2 になる。
- 180°パルスで位相を折り返すと、不均一による分だけが元に戻る。これがスピンエコーで、T2*ではなく本来のT2を測れる理由。
- 90°パルスで縦磁化を横に倒した直後がFIDの出発点。縦磁化の回復(T1)とは別の現象なので混同しない。
- グラディエントエコー(GRE)は180°パルスを使わないため、T2*の影響を受ける。だから磁化率アーチファクトが出やすく、逆にSWIなどではそれを利用する。
くわしく学ぶ
- MRIの基本物理:歳差運動・ラーモア周波数・共鳴 MRIの信号がどこから生まれるのかを、スピンの歳差運動、ラーモア周波数、共鳴という基本物理から整理します。f=γ/2π×B₀の意味や、なぜRFパルスで磁化が倒れるのかを、受験者・現場の両方に向けて図と式でやさしく解説します。
- SE法とGRE法の違い(スピンエコーとグラディエントエコー) MRIの二大撮像法、SE法(スピンエコー)とGRE法(グラディエントエコー)。エコーの作り方の違いから、T2とT2*・磁化率・撮像速度のちがいまでを、受験者・現場の両方に向けて図と式で整理します。
- TR・TE・フリップ角と画像コントラスト MRIのコントラストを決める3つのパラメータ、TR(繰り返し時間)・TE(エコー時間)・フリップ角。それぞれが何を変えるのか、T1強調・T2強調・プロトン密度強調とどう結びつくのかを、受験者・現場の両方に向けて図と表で整理します。