MAR(Metal Artifact Reduction:金属アーチファクト低減)
金属が作る放射状のスジを減らす画像処理。なぜスジが出るのか(ビームハードニングとフォトンスタベーション)、MARの限界、撮影側でできる対策まで。
一言でいうと
MAR(Metal Artifact Reduction)は、体内の金属が原因でCT画像に出る放射状のスジを、画像処理で目立たなくする技術です。
そもそもなぜスジが出るのか
原因は主に2つあります。どちらも「金属がX線を通しにくすぎる」ことから来ています。
① ビームハードニング(線質硬化)
CTのX線は、いろいろなエネルギーが混ざった連続X線です。物質を通るとき、エネルギーの低い成分から先に吸収されます。
その結果、通り抜けたX線は平均エネルギーが高い(硬い)状態になります。CTの計算は「X線の質は変わらない」という前提で組まれているため、この食い違いが暗いスジとして現れます。
金属は吸収がけた違いに大きいので、この効果が極端に出ます。
② フォトンスタベーション(光子飢餓)
金属が厚い方向では、X線がほとんど通り抜けられず、検出器に届く光子の数が極端に少なくなります。
データがほぼ空っぽの方向ができてしまうため、再構成の計算が破綻し、放射状の明暗のスジになります。「飢餓」という名前のとおり、情報が足りていない状態です。
MARは何をしているか
MARの基本的な考え方は、壊れているデータを捨てて、周りから推測して埋めるというものです。
- まず普通に再構成した画像から、金属の位置を特定する
- その金属を通った投影データ(サイノグラム)を「信用できない」として取り除く
- 取り除いた部分を、周囲の正常なデータから補間して埋める
- 埋めたデータで再構成し直す
限界 — ここが大事
MARは失われた情報を取り戻しているわけではありません。あくまで、もっともらしい値を計算で埋めているだけです。
そのため、次のような副作用が起こりえます。
- 金属のすぐ近くの構造が、実際とは違う形にぼやける・消える
- 補間の境目に、新しい偽の輪郭ができる
- 金属周囲の小さな病変が、処理で消えてしまう
このため実務では、MARをかけた画像と、かけていない元の画像を両方確認するのが原則です。「MARをかけたから安心」ではありません。
撮影側でできる対策
画像処理に頼る前に、撮影の段階でも減らせます。
| 対策 | 効くしくみ |
|---|---|
| 管電圧を上げる | 線質が硬くなり、金属を透過しやすくなる |
| 管電流を上げる | 光子数が増え、フォトンスタベーションが軽減 |
| スライス厚を薄くする | 部分容積効果による悪化を抑える |
| 体位・角度を工夫する | 金属が並ぶ方向を避ける |
管電圧を下げるのは逆効果です。低エネルギーのX線ほど金属に止められるので、アーチファクトは悪化します。ここは設問で狙われます。
デュアルエナジーCTという選択肢
デュアルエナジーCTでは、2種類のエネルギーのデータから仮想単色X線画像を作れます。
高いkeV(100〜140 keV相当)の画像を選ぶと、ビームハードニングの影響が大きく減ります。MARと組み合わせて使われることが増えています。
国試ではこう出る
- 金属アーチファクトの主な原因はビームハードニングとフォトンスタベーション(金属を透過できずデータが欠ける)。散乱線や体動ではない。
- MARは欠けた投影データを周囲から推定して埋める処理。本当のデータを取り戻すわけではないので、金属のすぐ近くに新たな偽像が出ることがある。
- 撮影側の対策は管電圧を上げる(線質を硬くする)・スライスを薄く・可能なら金属を照射野から外す体位。管電圧を下げるのは逆効果。
- デュアルエナジーCTの仮想単色X線画像(高keV)でもビームハードニングを減らせる。MARと併用されることが多い。
くわしく学ぶ
- CTの主なアーチファクト(ビームハードニング・金属・モーションなど) CTにも、実際にはない偽像(アーチファクト)が現れます。ビームハードニング、金属、モーション、リング、部分容積効果など、代表的なアーチファクトの原因と対策を、受験者・現場の両方に向けて図で整理します。
- デュアルエナジーCT(DECT)の原理と物質弁別 デュアルエナジーCTは、高低2つのエネルギーで撮影し、物質ごとの吸収の違いから組成を見分けます。仮想単色画像(VMI)・仮想非造影(VNC)・ヨードマップなどの応用と方式を、受験者・現場の両方に向けて図で整理します。
- CTの画像再構成(フィルタ補正逆投影・逐次近似) CTは多方向からの投影データを集め、計算で断層像を作ります。フィルタ補正逆投影(FBP)と逐次近似再構成(IR)の違い、近年の深層学習再構成(DLR)、再構成関数(カーネル)の役割を、受験者・現場の両方に向けて図で整理します。