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医用画像情報学

ウィナースペクトル・NEQ・DQE(ノイズの評価と検出量子効率)

前の記事「MTFの測り方」で扱った MTF は、信号がどれだけ伝わるかを表す指標でした。しかし画像の良し悪しは、それだけでは決まりません。信号がよく伝わっても、ノイズだらけなら小さな病変は見えないからです。

そこで必要になるのが、ノイズ側の指標と、信号とノイズを1本にまとめた指標です。順に、ウィナースペクトル → NEQ → DQE と積み上がっていきます。

国家試験では、この3つがセットで出ます。ウィナースペクトルの性質、NEQ の式の読み方、DQE の定義と計算の3点を押さえれば、ほぼ取りこぼしません。

ノイズは「量」だけでなく「粒の大きさ」でも違う

ウィナースペクトルとはウィナースペクトルの意味を示した図。左には同じ標準偏差をもつ2枚のノイズ画像が並んでいる。ひとつは粗いざらつき、もうひとつは細かいざらつきで、標準偏差だけではこの2つを区別できない。右のグラフは横軸を空間周波数、縦軸をウィナースペクトルとしたもので、粗いざらつきは低い周波数に山があり高い周波数で落ちるのに対し、細かいざらつきは低いところは小さいが高い周波数まで広がっている。曲線の下の面積すなわち分散は2つとも同じである。ウィナースペクトルはノイズを粒の大きさごとに分けたもので、NPSやノイズパワースペクトルとも呼ばれる。標準偏差はどれくらいばらつくかだけを表すが、ウィナースペクトルはどんな細かさでばらつくかまで表す。ウィナースペクトル:ノイズを「粒の大きさ」ごとに分ける同じ SD でも、ざらつきの粗さが違えば画像の見え方は変わるばらつきの大きさ(SD)は同じ。でも見え方が違う粗いざらつき細かいざらつき低い周波数に多い高い周波数まで広がるSD だけでは、この2つを区別できないウィナースペクトル(WS)なら区別できる粗いざらつき細かいざらつき0024空間周波数(cycles/mm)曲線の下の面積(=分散)は、2つとも同じウィナースペクトル = ノイズを「粒の大きさ」ごとに分けたものSD は「どれくらいばらつくか」だけ。WS は「どんな細かさでばらつくか」まで分かる分散(曲線の下の面積)が同じでも、形が違えば画像の見え方は変わるNPS・ノイズパワースペクトル・ウィナースペクトル・WS は、すべて同じものを指す
SD が同じでも、ざらつきの粗さが違えば見え方は変わる。ウィナースペクトルは、ノイズを粒の大きさごとに分けたもの。

ノイズの量は、ふつう SD(標準偏差)で表します。しかし SD は「どれくらいばらつくか」しか教えてくれません。

同じ SD でも、大きな斑点のようにざらつく画像と、細かい砂のようにざらつく画像があります。前者は低い空間周波数に、後者は高い空間周波数にノイズが集中しています。そして病変の見えやすさは、病変と同じくらいの大きさのノイズにいちばん邪魔されます。だから「粒の大きさ」まで知る必要があるわけです。

ウィナースペクトル(Wiener spectrum、WS)は、ノイズを空間周波数ごとに分けて表したものです。NPS(Noise Power Spectrum、ノイズパワースペクトル)もまったく同じものを指します。試験では両方の呼び名が出てくるので、別物だと思わないでください。

求め方は定義そのものが問われます。

WS(u)=∣F{ΔD(x)}∣2\mathrm{WS}(u)=\left|\mathcal{F}\{\Delta D(x)\}\right|^{2}

つまり、濃度(画素値)のゆらぎをフーリエ変換し、その絶対値を2乗します。MTF が「LSF のフーリエ変換の絶対値」だったのに対し、WS は「ゆらぎのフーリエ変換の絶対値の2乗」です。2乗するのはノイズ側だけ、と覚えておくと取り違えません。

ウィナースペクトルの性質と、粒状性の中身

ウィナースペクトルの性質ウィナースペクトルの性質を示した図。左のグラフは線量を変えたときのウィナースペクトルで、線量1倍に対し2倍では半分、4倍では4分の1に下がる。線量が少ないほど量子ノイズが増え、ウィナースペクトルは大きくなる。右には覚えるべき性質が5つ並ぶ。次元は面積すなわち平方ミリメートルであること、値が大きいほどノイズが多く検出能は悪いこと、線量が少ないほど値は大きくなること、濃度変動をフーリエ変換して絶対値を2乗して求めること、量子モトルは全周波数域に広く分布することである。粒状性は量子モトルと構造モトルとフィルム粒状の足し算で、デジタル系ではこれに電気系ノイズが加わる。主役はふつう量子モトルである。量子モトルが高周波だけに出るという記述は誤りである。ウィナースペクトルの性質と、粒状性の中身「値が大きい=ノイズが多い=悪い」。向きを取り違えないこと線量を増やすと WS は下がる線量 1倍線量 2倍線量 4倍0024空間周波数(cycles/mm)線量が少ないほど量子ノイズが増え、WS は大きくなる覚えるべき性質✓次元は面積(mm²)✓値が大きい = ノイズが多い = 検出能は悪い✓線量が少ないほど値は大きくなる✓濃度変動をフーリエ変換し、絶対値を2乗✓量子モトルは全周波数域に広く分布する粒状性(ざらつき)は3つの足し算量子モトル(X線光子数のゆらぎ) + 構造モトル(蛍光体の粒のムラ) + フィルム粒状デジタル系ではこれに電気系ノイズが加わる。主役はふつう量子モトル「量子モトルは高周波だけに出る」は誤り。全周波数域に広がる
線量が少ないほど WS は大きくなる。値が大きい=ノイズが多い=検出能は悪い。量子モトルは全周波数域に広がる。

試験で問われる性質は、次の5つに集約されます。

  • 次元は面積(mm²)。濃度の分散に面積を掛けた形になります。体積ではありません
  • 値が大きいほどノイズが多く、低コントラスト信号の検出能は悪い。向きを逆にした選択肢が定番です
  • 線量が少ないほど値は大きくなる。X線光子数が減れば量子ノイズが増えるからで、これも逆に書いた選択肢が出ます
  • 求め方は濃度変動をフーリエ変換し、絶対値を2乗
  • 量子モトルは全周波数域に広く分布する。高周波だけに出るのではありません

最後の項目は特に注意が要ります。粒状性(ざらつき)は、ひとつの原因で決まるものではなく、

  1. 量子モトル … X線光子の数そのもののゆらぎ(ポアソン分布)
  2. 構造モトル … 蛍光体の粒の並びのムラ
  3. フィルム粒状 … 銀粒子のムラ

の足し算です(デジタル系ではこれに電気系ノイズが加わります)。ふつう主役は量子モトルで、これは全周波数域に広がります。高周波でとくに目立ってくるのは、構造モトルやフィルム粒状のほうです。

NEQ:信号とノイズを1本にまとめる

NEQの読み方NEQの読み方を示した図。システムAとシステムBを3サイクル毎ミリメートルで比べる。解像特性のグラフではAのMTFが0.60、BのMTFが0.30で、Aのほうが高い。ノイズ特性のグラフではAのウィナースペクトルが0.40、Bが0.12で、Bのほうがノイズが少ない。NEQはMTFの2乗をウィナースペクトルで割ったものに比例するので、Aは0.60の2乗である0.36を0.40で割って0.90、Bは0.30の2乗である0.09を0.12で割って0.75となる。ノイズが3倍以上少ないBではなく、MTFの高いAが勝つ。もしMTFを2乗しなければBが勝ってしまうので、まず高周波のMTFを見るのが正しい手順である。NEQ = MTF² ÷ WS。MTF は2乗で効くノイズの少なさだけでは、MTF の悪さを取り返せない解像特性(MTF)0.600.30空間周波数(cycles/mm)035MTF3 cycles/mm で比べるノイズ特性(ウィナースペクトル)0.400.12空間周波数(cycles/mm)035WS3 cycles/mm で比べるA:MTF 高い WS も高い(ノイズ多い)B:MTF 低い WS も低い(ノイズ少ない)NEQ ∝ MTF² ÷ WS  MTF は「2乗」で効くA:0.60² ÷ 0.40= 0.36 ÷ 0.40 = 0.90B:0.30² ÷ 0.12= 0.09 ÷ 0.12 = 0.75ノイズが3倍以上少ない B ではなく、MTF の高い A が勝つ2乗しなければ B が勝ってしまう。だから「まず高周波の MTF を見る」
NEQ ∝ MTF² ÷ WS。MTF は2乗で効くので、ノイズの少なさだけでは MTF の悪さを取り返せない。

MTF(信号)と WS(ノイズ)が別々にあっても、「結局どちらの装置がいいのか」は決まりません。そこで両方を1本にまとめたのが NEQ(Noise Equivalent Quanta、雑音等価量子数)です。階調度 γ\gamma が一定のとき、

NEQ(u) ∝ [MTF(u)]2WS(u)\mathrm{NEQ}(u)\ \propto\ \frac{\left[\mathrm{MTF}(u)\right]^{2}}{\mathrm{WS}(u)}

MTF が高く、WS が低いほど NEQ は大きくなります。ここで決定的なのは、MTF が2乗で効くことです。

上の図で確かめてみましょう。3 cycles/mm でシステム A と B を比べます。

MTFWSNEQ = MTF² ÷ WS
システム A0.600.400.36 ÷ 0.40 = 0.90
システム B0.300.120.09 ÷ 0.12 = 0.75

B のノイズは A の3分の1以下なのに、勝つのは A です。もし MTF を2乗しなければ、0.60÷0.40=1.50.60 \div 0.40 = 1.5 と 0.30÷0.12=2.50.30 \div 0.12 = 2.5 で B が勝ってしまいます。2乗するかしないかで答えがひっくり返る、それくらい MTF の寄与が大きいということです。

グラフから選ぶ問題では、手順を固定してしまうのが安全です。

  1. 高周波側だけを見る(低周波はどの装置も似た値になるため、差がつかない)
  2. MTF が高いものを残す(2乗で効くので優先)
  3. その中で WS が低いものを選ぶ

DQE:入ってきた情報を、どれだけ使えたか

DQEの意味と計算DQEの意味と計算を示した図。入ってきた情報として、1平方ミリメートルあたりの入射X線光子数が1000個あり、ポアソン分布に従うので入力側のSN比は1000の平方根で31.6、その2乗は1000になる。システムでは検出器や読み出し回路や画像処理を通る間に情報が失われる。出てきた情報として画像のSN比は20で、2乗すると400になる。したがってDQEは400を1000で割って0.4である。入ってきた光子の情報のうち4割しか画像に生かせていないことを意味する。DQEは無次元で、理論上の最大は1、現実の装置では0.2から0.7程度である。DQEはNEQを入射光子数で割ったもので、掛け算ではなく割り算である。同じDQEでも解像特性が等しいとは限らず、DQEはMTFとウィナースペクトルの両方を含んでいる。DQE = 入ってきた情報を、どれだけ無駄なく画像にできたか入力側の SN 比の2乗は、そのまま光子数 N になる入ってきた情報入射X線光子 N = 1,000 個(1 mm² あたり)ポアソン分布なのでSNR(in) = √N = 31.6SNR(in)² = N = 1,000システム検出器読み出し回路画像処理ここで情報が失われる出てきた情報画像の SNR = 20(実測値)2乗するとSNR(out)² = 400DQE = SNR(out)² ÷ SNR(in)² = 400 ÷ 1,000 = 0.4使えた 40%捨てた 60%入ってきた光子の情報のうち、4割しか画像に生かせていないDQE の性質無次元(SN比の2乗どうしの比)。理論上の最大は 1。現実の装置は 0.2〜0.7 程度DQE = NEQ ÷ 入射光子数。掛け算ではなく割り算同じ DQE でも解像特性が等しいとは限らない。DQE は MTF と WS の両方を含む
DQE = SNR(out)² ÷ SNR(in)²。入力側の SN 比の2乗はそのまま光子数 N。無次元で、理論上の最大は 1。

DQE(Detective Quantum Efficiency、検出量子効率)は、入ってきた情報のうち、どれだけを無駄なく画像にできたかを表す効率です。

DQE(u)=SNRout2(u)SNRin2(u)\mathrm{DQE}(u)=\frac{\mathrm{SNR}_{out}^{2}(u)}{\mathrm{SNR}_{in}^{2}(u)}

計算で鍵になるのは、入力側の SN 比の扱いです。X線光子の数はポアソン分布に従うので、光子数を NN とすると標準偏差は N\sqrt{N}、したがって

SNRin=NN=N⟹SNRin2=N\mathrm{SNR}_{in}=\frac{N}{\sqrt{N}}=\sqrt{N} \qquad\Longrightarrow\qquad \mathrm{SNR}_{in}^{2}=N

入力側の SN 比を2乗すると、そのまま光子数 N になる。ここさえ覚えていれば、計算問題は一瞬で解けます。

たとえば 1 mm² あたりの入射光子数が 1,000 個、出力画像の SNR が 20 だったとすると、

DQE=2021,000=4001,000=0.4\mathrm{DQE}=\frac{20^{2}}{1{,}000}=\frac{400}{1{,}000}=0.4

入ってきた光子の情報のうち、4割しか画像に生かせていないという意味になります。

性質も押さえておきましょう。

  • 無次元。SN 比の2乗どうしの比なので、単位は付きません
  • 理論上の最大は 1。入射した光子の情報を一切失わない理想の検出器がこれにあたります。現実の装置は 0.2〜0.7 程度です
  • DQE = NEQ ÷ 入射光子数。掛け算ではなく割り算です
  • 空間周波数ごとに変わる関数です。ひとつの数字ではありません
  • したがって、同じ DQE の値でも解像特性が等しいとは限りません。DQE は MTF と WS の両方を含んでいるので、MTF が高くノイズも多い装置と、MTF が低くノイズも少ない装置が、同じ DQE になりうるからです

試験で問われやすいポイント

論点覚える形
WS の別名NPS・ノイズパワースペクトルと同じもの
WS の求め方濃度変動をフーリエ変換 → 絶対値を2乗
WS の次元面積(mm²)。体積ではない
WS と線量線量が少ないほど大きくなる
WS と検出能値が大きいほど悪い
量子モトル全周波数域に広く分布する
粒状性の中身量子モトル + 構造モトル + フィルム粒状
NEQMTF2÷WS\mathrm{MTF}^2 \div \mathrm{WS} に比例。MTF は2乗で効く
DQESNRout2÷SNRin2\mathrm{SNR}_{out}^2 \div \mathrm{SNR}_{in}^2。無次元、最大 1
入力側の SN 比SNRin2=N\mathrm{SNR}_{in}^2 = N(光子数そのもの)
DQE と NEQDQE = NEQ ÷ 入射光子数

「2乗」がどこに出てくるかを整理しておくと、混乱しません。

  • MTF … LSF のフーリエ変換の絶対値(2乗しない)
  • WS … ゆらぎのフーリエ変換の絶対値の2乗
  • NEQ … 分子の MTF を2乗
  • DQE … 分子・分母とも SN 比を2乗

まとめ

  • ノイズは量(SD)だけでなく粒の大きさでも違う。それを周波数ごとに分けたのがウィナースペクトルで、NPS とまったく同じもの
  • WS は濃度変動をフーリエ変換して絶対値を2乗。次元は面積、線量が少ないほど大きく、値が大きいほど検出能は悪い
  • 量子モトルは全周波数域に広がる。粒状性は量子モトル・構造モトル・フィルム粒状の足し算
  • NEQ ∝ MTF² ÷ WS。MTF が2乗で効くので、ノイズの少なさだけでは MTF の悪さを取り返せない
  • DQE = SNR(out)² ÷ SNR(in)²。入力側の SN 比の2乗は光子数 N そのもの。無次元で最大は 1、現実は 0.2〜0.7 程度
  • DQE = NEQ ÷ 入射光子数。割り算であって掛け算ではない

ここまでで、画質の物理評価(MTF・WS・NEQ・DQE)がひととおりそろいました。次は、そもそもアナログの像をデジタルの数値に変えるときに何が起きるのか、標本化と量子化に進みます。

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