計測学シリーズの最終回です。ここまでは「どうやって捕まえるか」の話でしたが、今回は「測ったあと、その数字をどう扱うか」を扱います。
この分野は計算問題の宝庫です。しかも、聞かれ方がほぼ決まっています。√N・時定数・表面汚染密度・不均等被ばく——この4つの型を押さえれば、確実に得点源になります。
計数は必ずばらつく
覚えるのは「N 回数えたら σ = √N」の1本だけ。平方根を取ってよいのは計数値 N に対してだけで、計数率にいきなり√を掛けてはいけない。
放射性崩壊はでたらめに起こる現象です。同じ試料を同じ時間測っても、毎回きっちり同じ数にはなりません。このばらつきはポアソン分布に従い、次の性質を持ちます。
σ=N
N は計数値(何回数えたか)です。すると相対誤差は次のようになります。
Nσ=NN=N1
たくさん数えるほど精度が上がるわけですが、平方根なので効きは緩やかです。精度を2倍にするには、計数を4倍にしなければなりません。
計数率にするときは、時間で割る
計数率は N/t です。標準偏差も同じように t で割ります(測定時間 t は誤差のない定数として扱う)。
tN±tN
ここでやってはいけないのが N/t。これは「計数率の平方根」であって、計数率の標準偏差ではありません。平方根を取ってよいのは計数値そのものだけです。
バックグラウンドを引いても、誤差は減らない
ここが最大のひっかけです。引き算をしても誤差は打ち消し合いません。むしろ2乗して足す(誤差の伝播)ので、増えます。
σ正味=t総2N総+tBG2NBG
サーベイメータの時定数
針はじわじわ真の値に近づく。1τ で63%、2τ で86%、3τ で95%。当てた瞬間の値は当てにならない。
サーベイメータの指示は、放射線場に入れた瞬間には正しい値を示しません。時定数 τ で決まる速さで、じわじわ真の値に近づいていきます。
n∞n(t)=1−e−t/τ
| 経過時間 | 到達する割合 |
|---|
| 1τ | 約 63% |
| 2τ | 約 86% |
| 3τ | 約 95% |
実務では「時定数の3倍待つ」と教わることが多いのですが、問題文が何%を要求しているかで答えが変わります。
時定数の使い分けも押さえておきます。短くすると応答は速いがふらつくので、汚染の場所を探すときに向きます。長くすると安定するが応答が遅いので、線量率を正確に読むときに向きます。
表面汚染密度の計算
どちらも「正味計数率を、効率のかけ算で割る」だけ。間接法は割る項が1つ増える(ふき取り効率)。Bq は毎秒なので、必ず 60 で割ってから計算する。
汚染検査の計算は、式を暗記するより「何で割るか」を数えるほうが速いです。
直接法(じかに当てる)
As=εi⋅εs⋅Wn−nb
n:総計数率、nb:バックグラウンド計数率、εi:機器効率、εs:線源計数効率、W:入射窓面積です。
手順は3つ。① 正味計数率を出す → ② cpm を cps に直す(60で割る)→ ③ 効率と面積で割る。
②を飛ばすのが、この計算での最大の失点です。求める単位は Bq/cm² で、Bq は毎秒の単位だからです。
間接法(ふき取ってから測る)
スミアろ紙で拭き取り、別の場所で測る方法です。ふき取れなかった分を割り戻す必要があるので、割る項が1つ増えます。
As=εi⋅εs⋅F⋅An−nb
F がふき取り効率(0.1 程度)、A がふき取った面積です。
個人被ばく線量計
読み出し方法で見分けるのがいちばん確実。TLD=加熱/蛍光ガラス=紫外線/OSL=可視光レーザー。フィルタの目的はエネルギー依存性の補正。
個人線量計はどれも積算型で、あとから読み出します。したがって線量率(いまの値)は測れません。
| TLD | 蛍光ガラス線量計 | OSL |
|---|
| 原理 | 熱ルミネセンス | ラジオフォトルミネセンス | 光刺激ルミネセンス |
| 読み出し | 加熱 | 紫外線レーザー | 可視光レーザー |
| 素材 | LiF など | 銀活性リン酸塩ガラス | Al₂O₃ |
| 繰り返し読み出し | できない | できる | できる |
| フェーディング | 大きめ | 小さい | 小さい |
TLDとRPLDの読み出し方法を入れ替えた選択肢が定番の誤答です。TLDは熱(Thermo)、蛍光ガラスは紫外線と、名前から結びつけておくと間違えません。
LiF の実効原子番号は 8.14 で、人体組織(7.4)や空気(7.6)にきわめて近い値です。だから組織等価な線量計として、エネルギー依存性が最も小さくなります。
フィルタの目的
蛍光ガラス線量計やOSLの素子は、実効原子番号が人体組織より大きい(12〜13程度)ため、低エネルギーのX線を過大評価してしまいます。光電効果が Z3 に比例するからです。
そこで Sn・Al・Cu など原子番号の異なるフィルタを重ねます。低エネルギー成分がフィルタで削られるので、過大評価が打ち消され、応答が平坦になります。これがエネルギー依存性の補正です。
さらに、複数のフィルタの下の読みを比べることで、入射した放射線のおおよそのエネルギーや種類まで推定でき、1 cm 線量当量と 70 µm 線量当量の評価に使えます。
不均等被ばくの実効線量
放射線防護衣を着て業務を行う場合、体の部位によって被ばくが大きく違います。そこで複数の線量計を着けて、重みを付けて足し合わせます。
E=0.08Ha+0.44Hb+0.45Hc+0.03Hm
Ha が頭頸部、Hb が胸部・上腕部、Hc が腹部・大腿部、Hm が手指などです。
実際の問題では、着けた線量計の数に応じて式を組み替えます。防護衣の外(頸部)と内(腹部)の2か所なら、防護衣の外側の値を Ha に、内側の値を Hb と Hc の両方に当てはめる、という形になります。
まとめ
- 計数はポアソン分布に従い、σ = √N。相対誤差 = 1/√N
- 精度を2倍にするには計数を4倍にする
- 平方根を取ってよいのは計数値 N だけ。計数率の標準偏差は √N ÷ t(N/t ではない)
- バックグラウンドを引いても誤差は減らない。2乗して足す
- サーベイメータは 1τ で63%、2τ で86%、3τ で95%。問題文が何%を要求しているかを読む
- 時定数は短く=汚染を探す/長く=線量率を正確に読む
- 表面汚染密度は正味計数率を効率のかけ算で割る。直接法は εi・εs・W、間接法はさらにふき取り効率と面積
- Bq は毎秒なので、cpm は必ず 60 で割ってから計算する
- 個人線量計はすべて積算型で、線量率は測れない
- 読み出しは TLD=加熱/蛍光ガラス(RPL)=紫外線/OSL=可視光レーザー。蛍光ガラスとOSLは繰り返し読める
- LiF の実効原子番号 8.14 は人体組織に近く、エネルギー依存性が最小
- Sn・Al のフィルタの目的はエネルギー依存性の補正(フェーディングとは無関係)
- 不均等被ばくは E = 0.08 Ha + 0.44 Hb + 0.45 Hc + 0.03 Hm。防護衣の内側の値をまとめて当てはめる
これで計測学シリーズは完結です。検出器の原理 → 線量の測定 → 測定値の扱い方という順で見てきましたが、共通していたのは「放射線そのものは測れないので、必ず何かに変換し、そのぶんを補正して戻す」という考え方でした。補正係数の名前を覚えるより、何を補っているのかをたどるほうが、結局は速い道になります。
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